飄々楽住

都会にはもう二度と戻りたくない、田舎ライフを楽しむ

私や貴方のその豊かな発想で、地域起こしが大失敗する理由 part.2

本記事のまとめ

  • 地域起こしには「何をやるか」ではなく、「何処を目指すか」=目的・目標が大事
  • 目的・目標について考え抜いていくと、「戦略」が形成される
  • 戦略が間違った実行は最悪の結果がまっている
  • 地域起こしを一緒にやってくれる人たちと「大事な事に集中」する事が大事

前記事のまとめ:地域起こしには「何をやるか」ではなく、「何処を目指すか」=目的・目標が大事

michihito-t.hatenablog.com

前回のpart.1にて、地域起こしは「何をやるか」だけだと、大失敗するという話をしました。やることが先行すると、何の為にやるのか、やってどうなっていくのかを周りの人が理解せず、地域をもっと良くしたいという善意が空回りし、上手く物事が運ばず結局は失敗してしまうというのが前回の話です。特に地域起こし、地域の人の力や、補助金といった個人の資本より大きな何かを得てやろうとすることなら、尚更「あれやろう」「これやろう」だけだと、地域から浮いてしまったり、巻き込んだ人を不幸にしてしまいます。

だからこそ、大事なのは「何処を目指すか」、目的と目標を立て、それを地域に共有していく事です。目的と目標を明確にすることで、必然と地域の人が考えて、動いていってくれるようになります。今回は、この目的と目標を「考え抜いていく」ということについてが本題になります。

目的・目標について考え抜いていくと、「戦略」が形成される

何故いきなり戦略という戦争用語が出てきたのかというと、物事を計画して目的・目標を達成するためには大事な単語な為です。もともとは戦争用語ですが、経済を戦争に例え構造的に見る際に使われています。「戦略的に物事をすすめる」など日常でも使う人も多いのではないでしょうか。この「戦略」という言葉を深掘りしてみます。

戦略って何?

簡単に言うと、戦略は目的・目標を効果的に達成するための大方針を指します。もう少し突っ込んで話すと、何が大事が見極め、適切に人、物、金などの資源を配分する方針です。

正しい戦略を立てるためには、目的・目標をどうやったら達成するのかを、今の自分の状況(どんな資源が活用出来るか)や、置かれた環境(どんなライバルが居るか、どんなお客が何を求めているか)を見極め、何にしたら最も効果的かとことん考え抜くことが重要です。孫子の兵法で言うところの「敵を知り己を知れば百戦危うからず」の指す所で、多くの人の力や補助金と言う大きなお金を使うハイリスク・ハイリターンの戦いを、負けないように優位に進める為の物です。

戦略と戦術の違いは?

似たような言葉に、「戦術」があります。戦術は具体的な実行手段、運用方法を指します。上述の「あれやろう」「これやろう」が将に戦術にあたります。一般的に、戦略が上位概念とされ、戦術は戦略に付随するものとされます。戦略が方針で、戦術が手段と言えば分かりやすいでしょうか。

この記事をご覧になられている貴方は、ちゃんとこの違いが答えられましたか?とある企業の新卒のマーケティング研修を担当させてもらった際、半数が正確に答えられませんでした。意識しないと、曖昧なまま覚えてしまいやすい言葉だったりします。

戦略と戦術の例

すこし分かりづらいので、非常にざっくりとした例をあげます。「観光で地域起こしを行い、地域の経済を潤す」が目的だとします。目標まで話をするとややこしいので、目的のみで話をします。状況を整理した結果、夜の消費が非常に少ないことから「1億円と地域の総力を使って、夜に地元の特産のお酒を飲んで貰える環境を調える」を戦略としました。そこで、「立派な村営のキャバレーを立てる」という戦術をとった。という様な具合です。

戦略が間違った実行は最悪の結果がまっている

多くの人が間違う戦略と戦術の関係

https://www.amazon.co.jp//dp/4041041414/www.amazon.co.jp

上記の本に書かれていた問題を出題します。
「以下の4つをマシな順番に並び替えよ」

  • A.戦略が良くて、戦術も良い
  • B.戦略が良くて、戦術はダメ
  • C.戦略がダメで、戦術は良い
  • D.戦略がダメで、戦術もダメ

多くの人が「A→B→C→D」、もしくは「A→C→B→D」と答え、最後がDの「両方ダメ」と答える人が殆だそうです。実は、この正解は

  1. A.戦略が良くて、戦術も良い
  2. B.戦略が良くて、戦術はダメ
  3. D.戦略がダメで、戦術もダメ
  4. C.戦略がダメで、戦術は良い

とのこと。戦略がダメで戦術が良いのが最悪なのです。この話、前回の記事「目的・目標が無いと地域起こしは大失敗する」という話にも通じています。目的・目標が曖昧、言い方を変えれば、どうやったら目的・目標が効果的に達成しうるかを考えた先の方針=戦略がデタラメなまま、「あれやろう」「これをやろう」だけが先行すると、多くの人が巻き添えを食らったり、税金が無駄になり負債になります。

戦略がダメで、戦術が良い最悪のパターンの例

上記の「村営キャバレー」の例にしてみましょう。

  • 目的:「観光で地域起こしを行い、地域の経済を潤す」
  • 戦略:「1億円と地域の総力を使って、夜に地元の特産のお酒を飲んで貰える環境を調える」
  • 戦術:「立派なキャバレーを作る」

この村が、飲んだ後に歩いて行ける距離で泊まれるホテル・旅館が無く、交通の便も悪い地域だとすると、当然ですが同時にホテル・旅館や公共交通の誘致も必要になります。更に、もともと夜に観光客が少ない地域ならば、新たに人に来てもらう様にプロモーションも必要になります。この様に「夜に観光客の消費を喚起し、地域の経済を潤す」為には、お酒の環境整備以外にも、宿泊の環境整備や、情報発信等、様々なことが必要になります。その状況で、「お酒の環境整備」に資源の集中投下が戦略として決定され、「立派な村営キャバレーを作る」事が戦術が決定されたらどうでしょう?貴方がどんなに頑張り、これが銀座にあったら間違いなく人気店のお店が出来たとしても、この環境下では間違いなく1億円は無駄になりますし、運営費がかさみ赤字も発生します。貴方が頑張れば頑張る程、惨めな結果が待っています。

さて、一方で、「観光で地域起こしを行い、地域の経済を潤す」が目的として、戦術としては愚策の「1億円を貯金」した場合どうでしょう?観光振興という目的は達成されないものの、1億円は手元に残ります。絶対に無理筋な村営キャバレーを作るより、余程マシな結果だと思いませんか?

まとめ:地域起こしを一緒にやってくれる人たちと「大事な事に集中」する事が大事

戦略無く、あれこれ手を出すと、何一つ上手くいかない

地域起こしは、他人を巻き込むことが大事です。とは言っても、地域の人ほぼ全てが「自分の生業」を持っており、その余力を借りることになります。そんな人達に「戦略的に地域を考え抜け!俺はその方針に従って実行をする!」と言っても、自分の生業が優先ですので、基本的に戦略は整備されません。。また、役場の地域起こし担当や、地域起こし公社やNPOの専従職員も、新たなプロジェクトに関われるのは精々数名が限度で、一緒に環境要因を調べ、考え抜き、正しい戦略を創り上げるには心もとないのが現実です。また、都会と違って、優秀な人材をお金で引っ張ってくる事もままなりません。それが地域起こしの現実なのです。この様に資源が限られる中で、目的・目標を煮詰めて戦略を明確にすることをせず、アイデアだけに頼ってあれこれ周りを巻き込んだらどうなるでしょう?「宿泊の誘致もやる」「プロモーションもやる」「環境整備もやる」「商品づくりもやる」とあれにもこれにも手を出したらどうなるでしょう?間違いなく、どれも中途半端に終わる事でしょうし、多くの資源が無駄になり、負債を抱え、手伝ってもらった人から「何やってるの」と言われ、信用を失うことでしょう。

目的・目標の達成に大事な事だけに集中し、それ以外を「やらない」と言い切る勇気

よく、経営に大事な事は「やらないことを決める事」と言われます。これは、ただ、「あれは辞めよう」「これを辞めよう」という話ではありません。目的・目標を達成する為に立てた戦略に資源を集中する為に、今行っている戦略にそぐわない仕事を削る事を意味します。とは言っても、地域起こしは(特に地域起こし協力隊は)いろいろな利害関係者がいろいろなことを言ってきます。首長や議会から「このプロジェクトをやってくれ」と言われたり、役場の「これ戦略的に無理があるよね」というプロジェクトにアサインされたり、地域の有力者が「あれやろう」と誘ってきたり、住民参加のワークショップで「これをやろう」といろいろな提案がなされたりします。そういう戦略に沿わない物を「やらない」と言い切る勇気が必要です。本当に大事な事に集中出来るようにコーディネートするのが、地域起こしをする上でとても大事になります。

地域には実行は出来る人は多いが、戦略を考える人が少ない

とは言え、地域は都会と違い、個人事業主が多いです。いろいろな人がいろいろな熱意を持ち、様々な意見、主義主張が複雑に入り組んでいます。そういう中で、目的・目標を明確にして戦略を立て、地域を一丸にする事は本当に難しい仕事ですし、それが出来ていないからこそ、衰退している地域が多いのです。狭義の意味の地域起こし、「地域をプロデュースして、地域全体が活性化し、儲かり、経済が循環する」を目指す人は、「あれやろう」「これやろう」という戦術ではなく、「何処を目指すか」=目的・目標を明確にし、それをとことん煮詰めて戦略を立て、それを地域で共有していく事を確りやっていくことをオススメします。戦略が明確なら、失敗も少なくなり、撤退の基準も明確になり、大損害を被る前に軌道修正が出来る様になります。そういうスキルを身に着けて行くことこそ、地域に本当に必要な人材になる為の準備ではないでしょうか。私も、それが出来ずとても苦労している日々を送って苦闘する日々です。