飄々楽住

都会にはもう二度と戻りたくない、田舎ライフを楽しむ

私や貴方のその豊かな発想で、地域起こしが大失敗する理由 part.1

本記事のまとめ

  • 地域起こしに皆一生懸命なのに、地域がどんどんグダグダになっていくことがある
  • 地域起こしとは、「地域が一丸となって何かに取り組む事」
  • 人を巻き込み、地域が一丸になるためには、目的、目標が必要
  • 目的と目標が曖昧な、「あれやろう」「これやろう」が地域を起こしを大失敗へ誘う
  • 地域起こしでまず大事なのは「何処を目指すのか」である

地域起こし協力隊を目指す人にも、是非読んでもらいたい、私なりの教訓だったりします。

地域起こしに皆一生懸命なのに、地域がどんどんグダグダになっていく事がある

竹下内閣時代の「ふるさと創生一億円事業」の教訓

昨今、「地方創生」ブームが来ています。日本の地方には良いものが溢れ、それは世界に通用する資源が原石のまま置かれている、活用して儲けるんだ!、そんな声が日本各地から聞こえています。しかし、実は、今から約30年前、平成になったばかりの頃にも地方創生がブームになっていた事があります。竹下内閣時代の「ふるさと創生一億円事業」というものがありました。地方の自治体に1億円を配り、自由に使って地域起こしをせよというものでした。紐が着いていない自由な予算で、ものすごく使い勝手がよく、それぞれの地域が頭を捻らせて、地域起こしにお金を使いました。ですが、何の為に使うかよく分からない巨大電光掲示板、村営キャバレー等、その多くは「無駄」認定され、むしろ負債になったり、大きく資産価値を減らした事例も多い補助金でした。

善意が損害を与えているワケは?

さて、この無駄が多かったとされる「ふるさと創生一億円事業」、当時の担当者たちも、決して「無駄遣いしてやろう」という悪意で使ったわけではないでしょう。村営キャバレーだって、「夜にお酒の飲める場所があれば、きっと観光客の満足度も上がり、地域は大きく活性化する!」と思って作った事でしょう。当時の担当者は本気の善意だったと思います。しかし、この善意が1億円を無駄にした挙句、運営の赤字まで出し、地域に損害を与えるという荒業を成し遂げたりしました。

地域起こしに皆一生懸命なのに、地域がどんどんグダグダになってしまうのは何故か、本記事はその考察です。

地域起こしの定義:「地域が一丸となって何かに取り組む事」

地域起こしといってもいろいろあるので、定義を絞る

ひとえに地域起こしと言ってもいろいろな事があります。貴方が地域でITの会社を企業して、何人か職員を雇うまでに成長できれば、それも一つの地域起こしです。他にも、空き家を活用して人気のカフェを作り地域の憩いの場を作れれば、それも一つの地域起こしでしょう。移住支援をして、一人でも二人でも移住者を増やす、これも地域起こしです。

ただ、今回は「地域をプロデュースして、地域全体が活性化し、儲かり、経済が循環する」という狭義の意味での地域起こしと捉えたいと思います。

地域をプロデュースすることは、ハイリスク・ハイリターン

では、地域をプロデュースするとは何でしょうか。
端的にいうと、「地域が一丸となって何かに取り組む事」ではないでしょうか。自分一人の力では大した事は出来ませんが、人やお金等、多くの資源でもって取り組むことで、地域は大きく変わっていきます。ただ、当然ですが、この「地域が一丸となって何かに取り組む」事は多くの資源を投下する=ハイリスクを意味します。ですが、当然、一人では出来ない事を実現するのだから、ハイリターンでもあります。だからこそ、プロデュース力、地域起こしのプロデューサーの手腕によって、補助金や多くの人の力を借りて地域に大金を産む事もありますし、1億円とその事業に携わった多くの人の時間と労力を赤字に変える事もあるのです。

人を巻き込み、地域が一丸になるためには、目的、目標が必要

次に、地域をプロデュースを行う上で、大切な事、目的と目標について考察していきます。

目的が無い指示・命令・労働は苦痛である

まず、大前提として、人を巻き込む事は、誰かに何かをお願いして、動いてもらう事です。その時に大事なことが「目的を伝える」ことが上げられます。目的が無いことでの極端な例を一つ紹介します。

ドストエフスキーが「地下室の手記」で示唆した懲罰の方法

  1. 穴を掘る
  2. 出てきた土で隣にある穴を埋める
  3. また穴を掘る
  4. 最初に掘った穴を埋める
  5. これを繰り返す

と言う物があります。どうですか?やっている自分を想像すると鬱になってきませんか?「何のためにこれをやっているの?」と悶々とすることでしょう。似たような話に、賽の河原、石を積んでいくと鬼が壊していくという、地獄の懲罰もあったりします。要するに、「何故この仕事をするのか」という目的が無い労働は、本当に辛く、巻き込まれる事すら嫌になります。だからこそ、地域起こし問わず、人を巻き込んで動いて貰うためには、「目的」を伝えることが大事とされます。

目標が無いと、分からなくなる

さて、次に目的をもって何かをしてもらう時に、目標があると、より明確に人にお願いをすることができます。
私も目標が原因でよく夫婦ケンカする事があります。例えば、「ごみを捨てておいて」と言われた時に、妻は「直ぐに捨てて欲しい」という目標があるのに対して、私は勝手に「今日中にやる」と勝手に目標を立ててしまいます。その違いで妻に「何で言ったのにやってくれていないの?」と言われ、「やらないなんて言ってないし、ちゃんとやるよ」と喧嘩になります。

目標が無いと、何処まで行けば良いのか、何時までにやれば良いのか、どれだけやれば良いのか、全く分からず、品質が担保されません。だからこそ、目標を伝える事も大事とされます。

目的・目標が明確になると、勝手に人が動き出す

この2つを明確にするメリットは、何と言っても、人が自発的に動いてくれる事にあります。何が目的に資するだろうか、どうやったら目標を達成できるのか、一人ひとりが考え、それぞれが自分の責任の範囲で行動してくれるようになります。地域という有象無象の集団が勝手に一丸になっていくための、目的と目標が必要なのです。

そして、逆も然りで、目的や目標が不明確だと、人は動きません。何を基準に考えて良いのか分からず、指示があるまで何もしなかったり、何処までしてよいのか分からず無価値な仕事を延々としたりします。そんな状態で出てきた成果物はだいたいろくな物ではありません。

目的と目標が曖昧な、「あれやろう」「これやろう」が地域を起こしを大失敗へ誘う

前述の通り目的や目標が不明確であれば、何であれだいたいは失敗します。地域起こしでは、その大失敗を引き起こすのが、将に発想豊かな人や、昨今流行りの住民参加型の町づくりワークショップだったりします。

危険な地域起こし人材「あれやりませんか?」

toyokeizai.net

上記の記事にもあるように、三流の地方創生コンサルを名乗る人は、成功事例の劣化コピーを押し付けてきます。地域起こしの目的・目標、地域がどうあるべきかという本質的な議論を非常に曖昧にしたまま、「あれをやりませんか?」というやることの提案が非常に多いです。この三流コンサルの人も、「この成功事例をもってきたら良くなるはず」と善意で行っている事も多いです。しかし、地域の人は目的が分からず、「これ何でうちの地域でやるの?」、「何がしたいの?」、「やって何の意味があるの?」とどんどん白けて行き、目標が無い企画は「とりあえずやりました」という何かが出来上がります。それは負債となって、地域に残って行きます。

滅ぼすのはコンサルだけではなく、地域の成功者にもいる

実は、地域住民の側にも壊す存在は居ます。そういう人は、実は個人では成功しているパターンが多いです。個人では、リスクが少ないため、とにかく「あれこれやって一つでも当たれば御の字」という手法が通用します。そのパターンで成功した人は、非常に発想豊かで、「あれやろう」「これやろう」といろいろな発想が次々に出てきます。しかし、ローリスク・ローリターンの個人ではなく、地域起こしはハイリスク・ハイリターン。こういう人の声はだいたいリスクにしかなりません。「あれやろう」、「これやろう」の多くが、目的や目標が曖昧であり、地域住民を振り回してしまいます。個人で成功しているので、地位が高かったり、人格的に優れている事も多く、その人の善意からの発言だけに、無碍には出来ません。だからこそ、その人が「観光客が夜にお酒が飲んで盛り上がれる場所があったら盛り上がる!」と言えば、周りが「観光客がそんなに歩いていないこの地域で酒場をやることに意味あるの?」という疑問を殺し、貴方も「何とか意味のある物に出来ないか」と努力を重ね頑張って「なんとか形にしました」と言うものを作り上げます。ですが、所詮目的が不明瞭な物は、往々にして機能せず、それが「村営キャバレー」という負債となって、地域に残っていきます。

本当は怖い住民参加型の町づくりワークショップ

この目的や目標が無い「あれやろう」「これやろう」が出来上がる場になりやすいのが、住民参加型の町づくりワークショップではないでしょうか。地域づくりに関して、住民がアイデアを出し合う場です。こういう場は、コーディネーターが余程しっかりした人でない限り、地域づくりの目的や目標、どうあるべきかという本質的な議論より先に、「あれがほしい」「これがほしい」というアイデアを募るケースが多いです。例えば、「観光客が夜お酒を飲んで盛り上がれる場所が欲しい」など。言った本人は、心の底から「あったら良いな」と善意で発言します。しかし、夜に観光客が酒を飲めることは地域づくりの目的に即しているのか、そもそもどんな地域を目指すのか、その目標はどこか、そういうことは議論されないケースが多いです。しかし、「観光客が夜お酒を飲んで盛り上がれる場所」を置く事がワークショップで一度決まってしまうと「酒場」だけが先行し、補助金で導入することは進んで行ってしまいます。その結果、「村営キャバレー」が出来上がって行ってしまうのではないでしょうか。

まとめ: 地域起こしでまず大事なのは「何処を目指すのか」

もし、貴方が本気で地域起こしをしたい、地域のプロデューサーになりたいと思うのなら、絶対にやってはいけないことが、目的や目標が中途半端な「あれやろう」や「これやろう」を乱発することです。その結果、無駄な物が山ほど出来上がり、それに巻き込んだ人を不幸にしてしまいます。かくいう私も、そんな失敗をして、多くの人に迷惑をかけてしまった苦い経験があります。携わって頂いた皆様、本当に申し訳ありません。だからこそ、まず第一に地域起こし人材がやらなくてはならない事は、「この地域は何処を目指すのか」、地域起こしの目的と目標をしっかり地域と共有していくことではないでしょうか。仮に何かアクションを起こし失敗をしても、いち早く失敗に気づけるでしょうし、何故失敗したかも冷静に見る良い指標になると思います。そして、その反省を共有して行くことで、地域は強くなっていくのではないでしょうか。